窯だより バックナンバー 2015年 9~12月
今年も残すところ わずか2日、平成27年が終わろうとしています。
まぁ 年の終わりは 新しい年を迎える節目くらいの感覚ですが、ここで ちょっぴり寂しい”終わり”の話しを・・・。
それは、ある美術館の閉館です。
先日、NHK・Eテレの「日曜美術館」でも 特集を組んでいたので ご存知の方も多いと思います。
タイトルは 『さようなら神奈川県立近代美術館 鎌倉・愛され続けた65年』 。
そう、あの ”カマキン” の愛称で親しまれた、鶴岡八幡宮の境内の あの「鎌倉近美」が閉館するのです。
日本が まだ占領下にあった1951(昭和26)年、初の公立近代美術館として開館。
その後 84年に「別館」が建ち、2003年には御用邸に隣接する超モダンな「葉山館」が造られましたが、
やっぱり思い出に残る多くの展覧会は ”カマキン” なのです。
開館は僕の生まれる前のことですが、さて 最初に行ったのは何時だったっけ? と、古い本棚を漁ってみると・・・、
ありました、1972(昭和47)年の 『ペーテル・ブリューゲル版画展』 の図録。
あぁ、思い出しました、当時 高校3年生の僕は、野間 宏 の小説 「暗い絵」 を読んだのです。
題名の ”暗い絵” とは、ブリューゲルの絵のことでした。
小説に感銘を受けて その画家に興味を持ちましたが、書店に画集すら無く、悶々の日々。
そして、読後 半年、新聞下段に 鎌倉近美の『ペーテル・ブリューゲル版画展』開催の広告を見つけた僕は、天にも昇る心地。
東京杉並の自宅から東京駅へ出て、オレンジ色とグリーンの野暮ったい横須賀線に揺られたのでした。
んむぅぅ・・、懐かしいなぁ・・・・
と、まぁ、ともあれ ちょっと 感傷的になってしまいましたが、
皆様、どうぞ よいお年を お迎えください。
2015.12.29
12月8日より 渋谷の「松濤美術館」で始まった 『最初の人間国宝・石黒宗麿のすべて』展、
その開催前日の内覧・開会式にお招きいただき、久しぶりに まとまった石黒宗麿作品を味わった。
宗麿が亡くなって今年で47年、大規模な回顧展は過去3度実施され今回が4度目だが、20年ぶりなのである。
タイトルの”最初の人間国宝”とは昭和30年に重要無形文化財保持者の制度が誕生して、
「志野焼」の荒川豊蔵、「色絵磁器」の富本憲吉、「民芸陶器」の濱田庄司らと共に、石黒宗麿が「鉄釉陶器」で認定を受けたから。
しかし、実際のレパートリーは幅広く、中国宋代や日本の古唐津などの技法を取り入れ 独自の作風へと高めた作陶家であった。
今回展の企画は 日本陶磁協会の機関紙『陶説』編集委員の小野公久氏。
元朝日新聞社の文化事業部に務め、中国国宝展など多くの美術展を実現された方で、
僕も 小野さんの企画の展覧会で ずいぶんと勉強したものだ。
石黒宗麿の研究も長く、20年前の サントリー美術館での3度目の回顧展も小野さんの企画だったが、
その後も地道な調査・資料収集を継続し、昨年には淡交社から『評伝 石黒宗麿 異端に徹す』を出版している。
2年くらい前から お会いする毎、今回の回顧展の話しを熱っぽく語られ、準備のため全国を駆け回っていると伺っていた。
作品は残っていても、その作品の背景を知る人が だんだんと居なくなる中、
陶芸文化を後世に伝える 資料、データベースづくりの大切さを改めて考えさせられる展覧であった。
会期は 来年 1月31日まで、年末年始は12/28~1/4が休館となっている。
2015.12.16
先だっての 中国・耀州窯の旅行から帰ったのち、古窯址の件で もう一度確認したいことがあり、
関係中国書籍をネット検索したら 神保町の中国書店 2店がヒットした。
しかし、行ってみると情報にタイムラグがあり現在は在庫なし、出版年が旧いので中国内を探すにも2、3ヶ月を要するらしい。
はて・・、困っていると店の人が 「トチュウトショへ行かれてはいかがですか?中国書籍はあそこが一番多いですよ」 と。
初めて耳にする名で、え?と聞きなおすと、それは書店ではなく『東京都立中央図書館』の略称だった。
場所は広尾の有栖川宮記念公園の中という、さほど遠くないので さっそく地下鉄に乗った。
広尾駅から公園内の落ち葉を踏みながら8分ほど、坂を登りきると木立の中に ひっそりとその図書館があった。
受付で聞いてみると、中国図書の所蔵は6万3千冊と驚くべき数で、それはもう 期待に胸を躍らせた。
ま、結果を言ってしまうと 目当ての本は無かったのだが、他の以前から見たかった本に幾つか出会えて
これから、ここ「トチュウトショ」を利用することが とても楽しみになった。
ところで、広尾を歩くのは初めてだったが 面白い街、とにかく 何処もかしこも外国人ばかり!公園内も然り、ここは日本?てな感じである。
が、公園の池のほとりには ”へら鮒釣り”に興じる日本人が数人、それも 釣り椅子や竿懸けの本格的出で立ちの釣り師たちだ。
いやぁ、そのギャップに しばし唖然・・・、道々覗いたテラス付の世界各国の料理店といい、広尾は どうも ワンダーランドのようである。
2015.12.1
10月末から1週間ほど 中国・陝西省の「耀州窯」(ようしゅうよう)古窯址を廻った。
耀州窯は 中国四大青磁窯 の一つで、浙江省の越州窯に次ぐ 唐時代のスタート、五代から北宋時代に上質な青磁を産した。
そののち時代とともに生産地を移し、河南省の汝窯、浙江省西端の竜泉窯へと続いていく。
耀州窯の中心的焼造地は、シルクロードの出発点である西安から 北へ100kmに位置する 銅川市 黄堡鎮。
その一帯での発掘調査は数次 行われ 報告書も刊行されていて、訪ねる場所も 当然多かったが、
この旅では 耀州窯でも発掘報告の少ない、又、報告の出されていない 他の古窯址にも足を伸ばした。
距離としては 黄堡鎮から15~20km東の 陳炉鎮、立地坡、上店。そして70km西の旬邑県・安仁村という所だが、
たどり着いた それぞれの窯址で 各時代の陶片や焼成具、使用された窯の残部などを確認でき、大きな成果が得られた。
ところで 余談ではあるが、それらの窯址へのアプローチで見た風景には驚かされ、感動でもあった。
黄土高原の谷あいにある黄堡鎮と、頂上部にある他の窯との標高差は なんと数百メートルを越すのだが、
その見渡す限りの黄土高原には、1ステップ10mくらいの段々畑が埋め尽くし、切った崖面の いたるところに横穴が掘られていた。
黒い穴がポッカリ開いているだけのもあるが、ガラス窓や扉が付いているところも多いのである。
不思議に思い ガイドに聞いてみた、と、「あー、あれ、家ね。今でも みんな住んでるよ。ヤオトンって言うね。」 !?・・・。
なんでも 内部は煉瓦で補強し、前面を窓と出入り口で飾る ”窯洞ようとん” という建築様式で、冬は暖かく 夏は涼しい 快適な生活なんですって。
2015.11.17
今年3月、東京国際フォーラムの「アートフェア東京2015」で この窯だよりに見聞を書いた、
古美術店、京橋・繭山龍泉堂の「俑(よう)」展が ついに開催された。
アートフェアという世界各国の一流ギャラリーが 1年間 練りに練った企画でもって出展するイベントに、
前代未聞、全て非売の予告展を やってのけた、あの 『 俑 YONG 2015 』展 である。
俑 とは、古代中国で 死者の霊を守り、安寧を願い 墳墓に副葬された、人間や動物を かたどった人形のことだが、
その芸術性は それらが発掘された 19世紀後半から欧米人を主導とした美術市場を席巻。
こちら日本でも、 それまで 中国陶磁を 茶道具としての視点しか持ち合せなかったところを、
画家、彫刻家、 文学者たちが、その美を認め 心酔し積極的に蒐集、自身の作中にモチーフとして多用した。
そして 時代は流れ、そのような 来歴、伝来の華やかなる品々を 龍泉堂が永年を費やして一点一点 集め、
このたび、中国、漢から唐時代にかけての陶俑、逸品ぞろい 30余点を一堂に披露したのである。
会期は、たった 3日間、その前に招待内覧を2日 設けていたが、僕が おじゃました初日夕方には 残り数点。
内覧2日目で完売してしまったそうである。 そりゃ そうでしょうねぇ・・・。
じつは、前々から、もう10年以上まえから 憧れてた、百済観音に似る 北魏時代の「加彩官人俑」にも赤丸が・・。
いったい、誰のもとへ・・、 まぁ しかし 冷静になって考えれば、
僕には 、、、オータムジャンボでも 当たらないかぎり、あぁ 、夢のまた夢って 価格なので ありました、です・・・。
2015.10.28
神奈川の鎌倉市と逗子市との境にある”お化けトンネル”を御存じだろうか。
もちろん それは通称で、小坪トンネルという 上り下り各3つの隧道からなるトンネルのことだ。
しばしば TVの 心霊スポットや恐怖ゾーンの番組に、芸能人等の体験談を交えながら取り上げられる 日本屈指の”幽霊トンネル”なのである。
そこで起るという不思議な現象は様々言われるが、まぁ なんにしても あまり 気持ちのいい道ではない。
じつは 先月のカスヤの森現代美術館での展覧会の折、僕は このトンネルを何度も通ることになった。
江の島から鎌倉、そして逗子海岸の間は、湘南R134号の内でも 海を眺めながら走る快適なシーサイドライン、大好きな道だ。
だが 土休日など、ひとたび交通量が増せば 昼夜を問わず 最悪の渋滞ルートと化すことに。
つまり、そうして 渋滞を回避して入る 知る人ぞ知る抜け道に、この”お化けトンネル”があるのだった。
そんな 不名誉な名で呼ばれるようになった 風聞の歴史は ずいぶんと古いようで、
川端康成の昭和28年作品「無言」に登場し、文中で 幽霊の姿形、出る場所、現われ方に及んでいる。
そう、それは ちょうど 僕が カスヤ美術館から帰る時分、夜、逗子方面から鎌倉側に抜ける 最後のトンネル。
そのあたりで 和服姿の女が 後部座席に すぅーっと 乗ってくるそうだ、
妙な気がして 振りかえると、確かに そこに。 しかし、バックミラーには映っていない・・・。
恐ろしくなって 夢中でアクセルを踏み、鎌倉の明るい街中に入って ほっとして、振り向くと、いつの間にか 消えているという。
・・・ あぁ・・、くわばら くわばら・・・、 僕は そのトンネルを通過するとき、一度だって振り向いたりしなかったことを告白する、・・・ 。
『無言』 は 『川端康成 全集』(新潮社)、『文豪怪談傑作選「川端康成集」片腕』(ちくま文庫)に収録されている。
2015.10.15
横須賀「カスヤの森現代美術館」での『中島克童 陶展』が 9月27日、盛会裡に終了しました。
お忙しい中を、遠方より たくさんの皆さまに ご来館いただけたこと、心より感謝いたします。
最終日は夕刻より、現代音楽で著名なピアニスト・高橋アキさんのコンサートが開かれ、
美術館の壁をスクリーンに マルセル・デュシャン や マン・レイ の映像を映しながらの、ジョン・ケージ、エリック・サティ の曲に酔いしれました。
演奏後の ビュッフェ・パーティーで歓談を楽しんだあと、いとまを告げて美術館を出ると、その夜は十五夜。
スーパームーンで ひときわ大きい 中秋の名月が、ポッカリ 浮いていたのでした。
2015.10.1
前々から望みながら機会がなかった アオバトを見に 大磯・照ヶ崎に行った。
いま個展中の横須賀への ちょうど通り道なのである。
アオバトが朝方に海水を飲むため飛来する岩礁海岸には、カメラの砲列が並び驚いたが、
10数羽の編隊が 入れ替わり立ち替わり現われては岩場の潮だまりに舞い降り、
1、2分 海水を飲んだり半身を浸けたりして飛び去る光景を幾度も見ることができた。
アオバトは体が緑色で胸は黄色、雄の肩部は葡萄色と一風変わった出で立ちで、その生態には謎が多い。
大磯まで毎朝 海水を飲みに来るのだが住むのは10km以上離れた丹沢山中で、我が窯場まわり。
しかし 山では姿を見せることはなく、不気味な鳴き声だけを山に響かせる。
唸るように長く 「 ウーァオー、アオゥアオーゥ 」 と尺八に似て哀調をおび、別名が尺八鳩。 その鳴き声は不吉とされる。
丹沢に窯を構えた当初 あまりに奇妙なこの声を 鳥とは思えず、あの伝説上の怪獣 「鵺ぬえ」なのではと・・。
後に その声の主がアオバトで、ヌエの異名を持つのは トラツグミという別の鳥だと知ったが。
ところで、丹沢には春から秋に住み 冬は何処に居るかというと、なんと 京都。
京都御苑の森は、冬にアオバトを見られることで有名なのだそうだ。
なんとも 不思議な 連中なのである。
2015.9.14
ありゃりゃぁ~~~
”窯だより” 今年1月から現在までの分が消えてしまいました。
このホームページはYAHOOのサイトで作っているのですが、インターネットエクスプローラーのかなり古いバージョンで稼動するのです。
したがって 普段はWin8.1のPCを使っているのですが、ホームページの更新にはXP以前PCで、という煩わしさ。
それがです、昨夜のこと、Win8.1の画面に「インターネットエクスプローラー11に対応しました」と、夢のような文字!
あ~、これでやっと 動きの超スローなポンコツPCと おさらばだぁ~、と さっそく その使い心地を試すべく ログイン。
入力して、”保存”ボタンを バシッ っとクリック! よしっ! むふふ・・ と ログアウト。
さてさて、どりゃどりゃ、・・・・
”窯だより” を開いてみると、そこには まっ白な画面があるだけでした。
やっちまった~~~
てなことで 消えちまったもんは 仕方ございやせん、元どおりにはならねども先ほどまだ記憶に残る前回 9月1日分 を再度入力、
そして1~8月分はバックナンバー に 画像とタイトルのみ紹介という方法で どうにか”窯だより”を復活させました。
あ~疲れたぁ、で、今後とも どうぞ ご愛読よろしくなので ございます。
2015.9.8
一昨日、9月2日から始まる、横須賀”カスヤの森現代美術館”での『中島克童 陶展』 の作品搬入・陳列を行いました。
カスヤの森では 6年振りとなりますが、今回はこの春5月に焚いた登り窯焼成による作品を一堂に展覧いたします。
松薪による窯焚きは、その都度の季節や天候、窯積みの微妙な異なりで千変万化、予想も及ばぬ窯変の彩りを生み出します。
日々の暮らしを潤す器たちが纏う幽玄の世界、土と炎の競演をご高覧ください。
会場は本館・第2展示室です。 また、カスヤの森は本館・新館の常設展示作品も秀逸ですが、
裏の敷地約2千坪の竹林には五百羅漢や現代アートが配され、心安らぐ散策を楽しめます。
初秋の ひととき、ぜひ、横須賀”カスヤの森現代美術館”に お運びください。
2015.9.1
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