窯だより バックナンバー 2023年 9~12月
さて、令和5年も幕を閉じます。
年を渡ると3月初旬に控える日本橋三越での個展準備に大わらわとなること必定です。
というのは、令和3.4年度に副会長を務めていた
大倉自治会の自治会長の番が回ってきたのです。
コロナ禍で何の経験も無いまま就任。
大倉は所帯数50戸余りの小さな村ですが、
上部に堀山下連合自治会、西地区自治会連合、秦野市自治会連合会が有って、
まぁ、出番の多いこと、計算外でした。
しかし、窯を築いて40年、お世話になって頂いている地元に、
少しでも恩返し出来ればと奮闘努力しております。
そんな訳で皆さま今年1年、大変お世話になりました。
どうぞ良いお年をお迎えください。
2023.12.30
今年もアレヨという間に師走なかば、年内の美術館訪問もそろそろ終わりかと先週、
旧知の唐津焼作家・藤ノ木土平さんの柿傳ギャラリーでの個展に合わせ、
戸栗美術館「伊万里・鍋島の凹凸模様」展を観てきた。
伊万里・鍋島というと絵柄文様が目に浮かぶけれど、
やきものの表面に凹凸文様が施された作品も多く伝世、
戸栗美術館には名品が揃っている。
削ったり、くりぬいたり、盛り上げたり、貼り付けたりと技法は多種多様。
その制作手順を推理すると、じつに難解だ。
しかし、今展は技法ごとに作品陳列して、制作過程をパネル展示、
とても親切で参考になる展覧会だった。
現在の自作に応用できるのもあったりして、
帰りに新宿の画材店・世界堂へ回り、
あれこれ使えそうな道具類を物色したのも、また楽しかったのである。
2023.12.15
横浜での知人の個展へ出たついで、ちょっと足を伸ばして
”天王洲アイル”の「TENNOZ ART AREA」を散策した。
ここは毎春、東京国際フォーラムで開催される”ART FAIR TOKYO"を
運営する会社「寺田倉庫」の拠点で、
アートに関する施設が10数ヶ所も点在するワンダーランドだ。
この日は大きなイベントこそ無かったが、
現代美術の最前線を張るアートディレクターたちのギャラリーが入る
「TERRADA ART COMPLEX」では、今年3月の”ART FAIR 東京 2023”の
入口を巨大作品で飾ったアーティスト田島タカオキの新作も観れた。
まさに眼福、満たされた気分で退出したのである。
夕暮れせまる天王洲アイル駅への道、
ふと見上げると驚くほど近く、ビルを掠めるように
旅客機が羽田空港の方に降りて行った。
2023.12.1
文化芸術の秋、まっ只中。
あちこちから届く案内状、招待状に、アレも観たいコレも行きたいと
悩ましい日々が続いている。
現在、来年3月の個展に向け、全力で制作に打ち込まねばならぬ時期なのである。
とは言っても、こればっかりは外せないと出掛けた所を幾つかご報告。
静嘉堂@丸の内「二つの頂き・宋磁と清朝官窯」。
国立科学博物館「和食・日本の自然、人々の知恵」。
根津美術館「北宋書画精華」内覧会。
鶴見大学・秋季シンポジウム「朱印船時代の陶磁文化」。
出光美術館「青磁・世界を魅了したやきもの」。
繭山龍泉堂「青瓷昇華・唐宋と高麗の青瓷展」。
やっぱりスケジュールやり繰りして足を運んで大正解、
いやいや、どれもこれも素晴らしい内容で十二分に刺激を受け、
明日への活力となった次第である。
2023.11.15
先日、日本工芸会神奈川研究会の令和5年度研究会・総会が行われた。
研究会は鎌倉の老舗美術専門店「瀧屋美術」が営む『Takiya Art Museum』で、
開催中の「JAPONISM・ジャポニズム展」を鑑賞考察する有意義な内容であった。
しかし、開会は午後2時、せっかく鎌倉まで足を運ぶのだからと
朝早く家を出て、たっぷり秋の古都を楽しむことにした。
ちょうど限定公開が始まったばかりの「まんだら堂やぐら群」は、
13世紀後半から16世紀頃までの150穴以上が確認される奇怪な山上遺構だ。
探訪のあとは鎌倉七口のひとつ「名越切通」を抜けて
山から海に下り、真っ青な空にキラキラ光る由比ヶ浜をぶらりぶらり。
じつは、その日一番の楽しみにしていたのが、ランチ。
「横浜ホンキートンク・ブルース」で知られる『オリヂナル・ジョーズ』で。
横浜から移転しての鎌倉なのだが。
作詞が俳優の藤竜也、作曲がカップスのエディ藩、40年まえ1982年リリースの名曲。
松田優作、原田芳雄、宇崎竜童、萩原健一など、
硬派な俳優、ミュージシャンたちに歌い継がれた曲で、
歌詞に「飯を喰うならオリヂナル・ジョーズで・・・」と出てくるのである。
あぁ、ついに来れた、オリヂナル・ジョーズ。
飯を喰いながら店内から見る、扉ガラスの裏返ったロゴは、哀愁が漂っていた。
2023.11.1
神奈川県全域と多摩地区で新聞折込みタウン誌を発行している「タウンニュース」の
秦野版にて、この前の神奈川会展会長賞受賞を紹介していただいた。
「人物風土記」という、大きい顔写真が付くかなり恥ずかしい紙面である。
しかも、狭い市内で週一毎に載せるわけだから取材対象者は老若男女じつに様々。
音楽コンクールで入賞の幼女から、農産物品評会で表彰された超高齢者さんまでと、
思わず微笑んでしまう、そんなコーナーなのだ。
で、発行から今日で5日、新聞を取っているのが当たり前のこの辺り、
会う人ごとに先生、先生とからかわれているのである。
2023.10.17
暑かった今年の夏もやっと幕を下ろし、十五夜を境に急に秋めいてきた丹沢である。
山の散歩道にある案内板に、牡鹿が牝に向けて鳴く求愛の声に
耳を澄ましてみてくださいと促しているが、
その遠い馬の嘶きにも似た声は山に物悲しく木霊して、
一層秋の気配を際立たせるのである。
牡鹿の鳴き声を聞く時、脳裏を去来する百人一首の歌、2首。
猿丸大夫と藤原俊成が山の奥で鳴く鹿の声を詠んでいて、
秋の悲しさに人生の哀れみを重ねている。
悲しからずや秋は、と。
2023.10.2
様々な行事が4年ぶりに通常開催となった今年の夏、
わが家でも久しぶりに余り綺麗でない湘南から離れ、
真っ青な海で波乗りを楽しもうと南伊豆サーフトリップに出掛けた。
夏休みの狂乱が終わった連休前の静かなビーチは
心身ともにリフレッシュできる貴重な場所であり時間である。
それに、下田にはもう一つの楽しみがあって、
アジアン・アンティーク&雑貨の店「えん en」に立ち寄ること。
なかなか目利きのオーナー浜ちゃんが年2回のアジア買い付け旅で
仕入れた成果を見せてもらうのが、とにかく面白いのだ。
さてさて、そして今回の買い求めた逸品はというと、
ミャンマー漆器「馬毛胎キンマ椀」。
ビルマ漆工芸の中心地パガンで制作されたもので、
馬の尻尾の毛を編んだ馬毛胎を漆で塗り固め、
精緻な模様を彫り、色漆を施した大変珍しい技法の椀だ。
現在、その技術伝承が絶えようとしており、
世界中の博物館・美術館が収蔵に努めている。
下右の画像は「ビルマ漆工芸美術」誌に紹介された頁で、
「馬毛胎」の構造が良く見て分かる。
ま、そんなことで、波と器に恵まれた小旅行を満喫したのであった。
2023.9.19
今年の夏もオマゴちゃん一家がソウルからやってきた。
昨年はコロナ禍での初来日、どこへも連れてってあげられず、
今年こそ喜びそうな所へと相成った。
オマゴちゃんは3歳の男子、何よりもクルマが大好きなのである。
ということで、わが家から1時間足らずのサーキット「富士スピードウェイ」へ向かった。
ここに昨秋オープンしたレーシングカー博物館「富士モータースポーツミュージアム」があり、
カーレース歴史上の国内外の名車40台が展示されている。
130年前に世界初のカーレースで優勝した車から始まり、
現在までの華やかなウイニングカーが一堂に並ぶ様は圧巻だった。
オマゴちゃんは最新のF1カーに乗っての記念撮影など御満悦の体であったが、
じつは少年時代に憧れた往年の名車を目前にして、
連れていった僕が一番喜んでいたような気がするのだった。
2023.9.1
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