窯だより バックナンバー 2012年 5〜8月


 

そろそろ 秋の個展案内状の製作プランをたてる時期である、

通販印刷だから データさえできれば 印刷自体は速いのだが。

まぁ しかし、手にしていた源氏物語を置いて ふと思う、それにつけても 今は便利な時代なのだ。

紫式部の平安時代でも 印刷は行われていた、が、それは簡単な仏画や経文の一部など。

物語は、作者が筆で紙に書き 冊子に仕立てたものを、周囲の人が借りて読み 写す、そこで はじめて複本ができる。

そのくりかえしで 徐々に徐々に部数が増えるのであって、つづきを読みたくても

作者に縁遠い人は とても簡単には手にできなかったらしい。

更科日記の作者、菅原孝標の娘は 源氏物語の熱烈な愛読者だったことを その中に記しているそうだ。

京から遠く離れた 父の任地に過ごした少女時代、等身大の薬師仏を作って

「早く 京に戻れて、源氏物語の つづきを たくさん読めますように」 と 祈ったとのこと。

しかし その後、帰京は叶ったものの、文学者の多い家柄にありながら その伝手をもってしても、

源氏物語は なかなか入手できず 悲しい思いをしたそうな。

物語、読物 が印刷されるようになるのは、紫式部の時代から 600年後、

仮名草子などが現れる、木版印刷技術が発達した江戸時代になってから。

待ち焦がれて 読むのと、クリックひとつでダウンロードして読むのでは

同じ内容でも さぞや 読後感が違ってくるだろうな、などと思ったりしてみるのだが・・・。

まぁ、そんなことより とにかく、DM製作のことを考えねば。僕の 頭は、すぐに横道に逃げようとするので困るのである。

と、云いつつ、 手は また 本へと のびる・・

源氏は 49歳、 栄華を極めた身辺にも、ついに 翳りが見えだしてきた。

2012.8.17


中田英寿はサッカー現役引退後、世界を旅し 90ヵ国以上を訪問しました。

自分探しの旅 として話題を集めたことは 記憶に新しいところです。

そして、世界を旅することで 改めて 日本の魅力に気づいたという彼が 現在 取組んでいるのは、

日本の文化をめぐる旅 「Re VALUE Nippon」、リバリュー日本、つまり 日本再評価です。

これは、自ら都道府県を1県ごとに訪ね歩き、その土地ならではのもの

匠の技、食文化、伝統、産業、といった事柄に直接ふれ、勉強しようという企画なのです。

沖縄県から東進北上するかたちで始まった 旅の様子は、

中田英寿オフィシャルホームページ「 nakata.net 」で順次紹介されてきましたが、

このたび、7月27日に 神奈川県をサイト公開しました。

私、中島克童 も登場しておりますので、ぜひ ご覧になってください。

神奈川の文化をめぐる旅は、寒さ厳しき2月下旬のこと。 僕は モコモコと着膨れしてて なんとも恥かしい姿ですが、

そういう状況においても 中田さんは クールでスマート!人柄を含めて めっちゃカッコイイ男だったのです。

世界であろうと、沖縄であろうと、東京のとなり神奈川であろうと、旅は旅。

同じコンセプトで、8日間の日程を 一度も東京に戻ることなく 神奈川を旅する姿には、さすが、中田! と 思ったのでありました。

2012.8.1


昼の暑さに疲れ果て、夜は扇風機の前で ゴロ寝のテレビ。

と、ニュースで 京都の祇園祭が 映し出された。

あー、この時期かぁ、 同じ猛暑でも やっぱ 風情があるなぁ・・・。

昨年から ぼちぼち のんびり読んでいる源氏物語、今は だいたい半分くらいで 源氏 36歳、

「常夏」の帖を ちょうど最近 読んだところだった。

旧暦の6月のことだから まさに今時分。

たいそう暑い日に 若いもの達を連れ 水辺の釣殿で涼むのだが、これが なかなか洒落ている。

桂川の鮎 と 賀茂川の鰍 で 盃を酌み交わし、そして 氷水を取り寄せて・・・云々。

氷水・・、あー、そういえば このまえ、 鴨川の ほとりで暮らす 知人からのメール、

添付されていた写真が なんと 和久傳の ”焙じ茶氷”! おー・・

ほうじ茶の かき氷に あずき と 白玉が乗ってて・・

美味しそうだったなぁー ・・

あー、 京都、 行きたいなぁー ・・・

2012.7.18


初夏、ある 山の一日をご紹介しましょう。

いったい何種類いるのか、鳥たちの大合唱で目が覚め 一日が始まります。

ネコのレオ君も お目覚めのようです。

朝ごはんを食べながら ぼんやり庭先を見ていると、お猿さんがモミジの枝を 雲梯渡りして通り過ぎます。

途中 一回チラリと こちらを見てました。レオ君は縁側で 固まっています。

さて 仕事すっか、と てくてく工房に上がって ガラス戸をガラガラ開けていると

うらの泥漉し場に住み着いたムササビ君が、うるせぇなぁ 眠れねぇじゃん と出てきて

めんどくさそうに 杉の木に登りました。彼は夜行性なのであります。

ボタボタボタ、怒ったのか ウンチの雨をふらせます、あぁー こらっー!

などと騒いでても ぜんぜん知らん顔で ムシャムシャ草を食むでいるのは、夏毛に変わった子鹿ちゃん。

ぼくは ムササビ君の飛行が見たくて 首が痛くなるほど見上げているのに、いっこうにフライトしません。

あっ そうか、こいつ 夜間飛行 専門だったっけ・・・。

などなど するうち 一日は終わり、仕事は 溜まるばかりなので ございます。

ではでは。   あ、今、ヒグラシの初音・・・ 夏 だ 。

2012.7.3


「民芸」、人々の生活の中から生まれた 素朴な美。

大正から昭和にかけて 柳 宗悦が提唱した民芸の美学は、今も受け継がれ 万人の知るところである。

しかし、その宗悦が 庶民的な美の数々を発見する、そもそもの きっかけとなった李朝白磁を

柳に紹介した 淺川伯教・巧 兄弟のこととなると、知る人は 案外に少ない。

大正初年、若くして朝鮮に渡り、当時の日本の半島政策が渦巻く中、

常に 朝鮮の人々の側に立ち、人を 歴史を 文化を愛して、朝鮮の美術工芸を調査 研究 収集。

”朝鮮民族美術館” の実現に奔走しながら 41歳で 病に倒れた、弟 淺川 巧の生涯は、

「白磁の人」(河出文庫)として 江宮隆之により著され、長く多くの人に読まれてきた。

3年ほど前、その「白磁の人」の映画化が発表され、皆 公開を心待ちにしていたのである。

それが ついに ついに 完成! 「道・白磁の人」 が 6月9日 全国ロードショーされた。

うちは 田舎だから 1番近い上映館までも バス電車で 1時間、150席はどの 小スクリーンで 上映は朝1回のみ。

その上 ちょっと遅れて 6月14日スタート、と かなり 悪条件。

いやいや それで充分、とにかく 早く 観たくてしかたない心境なのだ。

なんでも 柳 宗悦 役は、今 お騒がわせの 二股男優なのだそうだが、

そういうことも 僕には よく分からないことだし、どうでもいい ことなのである。

2012.6.17


六月、紫陽花の季節です。

いにしえの風かおる 古都・鎌倉へと 計画されている方も多いのでは。

そこで ちょっと、耳寄り情報を おひとつ。

鶴岡八幡宮境内にある”鎌倉国宝館”で 5月31日から開催の、「常盤山文庫名品展2012・特集米色青磁」展 です。

常盤山文庫ときわやまぶんこは、鎌倉山の開発に尽力した 故 菅原通齋氏によって 昭和18年に創始されたコレクションで、

国宝2点、重文23点を含む 書画、そして近年収集された中国古陶磁の逸品で構成される 重厚なもの。

その中、この度の名品展のタイトルである”米色青磁”は、現在 世界に4点 すべて日本にあり、

うち3点が なんと常盤山文庫の所蔵なのです。 その3点を一挙展示。

しかも、謎の多い米色青磁の研究において 貴重な資料となっている、

昭和初年の中国杭州領事・米内山庸夫が、南宋官窯址とされる現地で採集した 陶片とその採集記録ノートを特別出品。

これは もう めったに公開されるものではありません、そうそう見られるものではないのです。

その上、この 鎌倉国宝館ならではの観覧料は、なんとビックリ 300円!!

ほかの ○○美術館、△△博物館だったら こうは いきません。

中国陶磁18点、国宝を含む書画14点、そして特別出品を加えた 充実した展覧を 古都・鎌倉で、

この機会に ぜひとも 御鑑賞ください。  会期は 7月1日まで、月曜休館です。

2012.5.30


カメラを買った。 個展DM作成のためである。

印刷業界のデジタル化の波は ついに克童窯まで達したわけだ。

今や DMは通販印刷の時代、”完全データ入稿”といって

「PCでフォトショとイラレを使って、なんでも自分でやっておくんなさいまし、

データが出来上がったら圧縮してWebで送ってちょ、3日で刷っちゃいますからぁ」 ってなもんなのだ。

まぁ コスト的には15年前のたった2割の制作費で済み、これはこれで嬉しいのだけど。

ただ、今まで愛用してきたカメラが ちょっぴりかわいそう・・・

東京 下町にある タチハラ写真機製作所の木製フィールドビュータイプ4x5inch判カメラ、

樹齢500年の天然朱利桜を使用した 木肌の美しい木製組立暗箱式、

赤色蛇腹に金色金具という チャーミングな出で立ちなのだ。

タングステン(写真照明)フィルムが 消えて早や2年、デーライトフィルム撮影のため

フィルター解析をフジでしてもらったら、なんと 3枚ものフィルターをかますことに。

それに伴う超長時間露光、そのあとのフィルムをデータ化するスキャニング、等など・・

途中工程による 画像品質低下は ついにクリアできなかった。

で、目下 一眼デジカメの勉強中。

年齢と酒による品質低下の著しい 克童脳は悲鳴をあげているのである。

2012.5.15


ゴールデンウィークは、ま、仕事でも すっか・・・

と いうのは、つい先日 大阪高島屋での個展が 今秋10月と決まり、

それに伴うプレゼンは 7月からとの連絡があり、なんとなく気ぜわしくなってきたのである。

そういえば ここ何年か GWは家で のんびり読書のパターン、

去年は たしか ドストエフスキーの「白痴」だったと思う。

今年も「カラマーゾフの兄弟」を読んでいたが タイミング良く 連休直前に読了、

神様も”仕事せぇよ”と おっしゃってるようである。

 が、なんか こう スッキリしなくて、モヤモヤっぽい。

それは どうも 上中下3巻にわたる それもかなり厚手の文庫である この長編作品が、なんと未完なのだ。

ドストエフスキー小説の読書感は、どこか 交響曲を聴くのと似た感じがする。

「白痴」では、初冬のペテルブルクに向かう夜汽車に乗り合せた二人の青年が、

「寒いかい?」という会話から 不思議な縁で繋がり、やがてペテルブルクで様々な人々と交わりながら

一人の女性を中心に渦巻く潮流に翻弄される。 終章は もう夏、

その女性の死体が横たわる寝台の横、二人の青年は床に座り 語り合い 夜を明かすのだが。

この流れ、汽車の中で 第一楽章が アンダンテのソナタ形式で始まり、

第二楽章 モデラート、第三楽章 アレグロ、と展開して読者を とことん引き込む、

そして 終章、第四楽章 アダージョ、死者の横での 静かで 呟くような 余韻。

まさに、壮大と繊細が織りなす ドストエフスキー・シンフォニーの世界・・・。

カラマーゾフは、1部、2部から成る構想で執筆され、その1部を書き終えたところで他界したため、

一応は途中完結されてはいる、そして白痴より重厚さでは勝るとも思う。 が、やはり なんか 燻ぶってしまう。

ま、しょうがないか・・、無いものは 無いんだし・・・。

源氏でも読みながら ボツボツ 仕事すっかね、

源氏は まだ26歳、流された 須磨から明石あたりで めそめそ しているのである。

2012.5.2



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