窯だより バックナンバー 2013年 5〜8月


 

この夏は まったく どうも 変な気候で、立秋をすぎてからが本格的な夏、猛暑となっている。

連日の暑さに 体力は汗と共に流れ落ち、お昼のあとに ちょこっとロクロ台に横になると、すっと睡魔に襲われるのだ。

蝉の声を聞きながらの 夏の午睡、薄れゆく意識は 遠い幼年時代へと さすらう。

苦しいほどに 懐かしい、あのころに いざなう 記憶装置、夏の昼寝。

「 うなゐ児が すさみにならす 麦笛の 声におどろく 夏の昼臥し 」

西行が 晩年に詠んだ ”たわぶれ歌” の連作の ひとつ。

僕の 大好きな 歌。

そういえば 同じころの 今様・梁塵秘抄 の

 「 遊びをせんとや生まれけん 戯れせんとや生まれけん 遊ぶ子供の声聞けば 我が身さえこそ ゆるがるれ 」

そうだよなぁ、身がゆらぐほどの幼年時代への 憧憬って、あるよなぁ・・・

この歌、遊女の白拍子の歌という説もあるけどさ、梁塵秘抄を編んだ 後白河って そんな奴じゃないよ・・・

ま、しかし、・・・オレも 歳 とったって ことかいねぇ・・・?

2013,8.15


2007年に開館した 海辺のリゾートミュージアム、横須賀美術館に やっと行けた。

横須賀といっても 浦賀水道を望む観音崎に位置し、我が居所からは神奈川県の端と端。

なかなか機会が無くて、デートスポットとしても有名になっているハイセンスな この美術館を訪れたのは、これが初めてである。

ま、デートスポットなどの利用目的には、もう無縁な齢の僕ではあるが・・。

さて、現在開催中の 『眞板雅文 展・あめつちとの協奏』 が、とてもよかった。

4年前に亡くなられた彫刻家の眞板さんとの交流は、この窯だよりに何度か書いているので省くが、

素材、表現を変化させながらダイナミックな制作を続けた氏の作品のうち、

1990年代半ばの”鉄と水”を素材とした 一辺が4mを越す大作 《 水面の宴 》 が、

この度 横須賀美術館に収蔵が決まり、それを記念して組まれた展覧会である。

同時代の作品 10点ほどの構成で、10月20日まで展示されている。

インスタレーションを含めた 大作が多い作家のため、今回のように纏まって見れるチャンスは なかなか無いのである。

そして、現在 同時開催中の企画展の方は、『日本の「妖怪」を追え!』展。

北斎、広重、国芳 から 水木しげる、松井冬子、現代アート作家まで、

さまざまな かたちで表現された「妖怪」を通して 日本人の心に潜む陰翳を垣間見るのも、暑い夏には ぴったしだ。

そのあとは、海辺の散策も良し、観音崎灯台に登って 潮風に吹かれるも良し、

まったく 旅行気分に ひたれた一日だった。

2013.8.2


七夕直前に急用ができて 佐賀に飛んだ。

急だから 主要のエアラインじゃ早割りとかは無理で、

最近 ぐっと増えた格安航空社を探したら 福岡便スターフライヤーがあった。

なんとなく 星祭りっぽい名前だなぁ、なんて思いつつ 羽田に行って 驚いた。

スターフライヤー機の カラーリングが カササギみたいなのだ。

カササギは 七夕に無くてはならない鳥、七夕伝説は中国より伝来したが、

本家 中国では 七夕の夜に カササギが天の川に翼をひろげて橋をかけ、

織女星を 一年ぶりに渡すという シチュエーション。

カササギはカラスより やや小さく、肩と腹とが白色で あとは黒色のカラス科の鳥、

中国や朝鮮の古陶磁に 絵付けのモチーフとして登場する。

日本では 佐賀平野を中心に 北九州に生息し 天然記念物だ。

日本原産説もあるが、一般的には 16世紀末に朝鮮から秀吉が移入し、

戦勝を予告する鳥とされ ”かちがらす” の 呼び名もある。

どちらにしても 関東に住む我々にとっては どこかロマンを感じる鳥なのである。

15年まえに 吉野ヶ里遺跡へ行った時は、それはもう あちこち、畑にも道にも降りていて感激したが、

最近は すっかり減ってしまったそうで、この2日間の滞在では ついに その姿は見られなかった。

ところで、百人一首の中で 大伴家持がカササギを詠んでいるけど、

見たことないのに 中国の書物からの知識で 歌を作ったので

からだ全体が 白い鳥だと思っていたらしいのだ、面白いよね。

ちなみに スターフライヤー機のデザインイメージは、”忍者”ということを 搭乗後に知ったが、

ありゃ どう見ても カササギ、と 僕は断言します。

2013.7.14


6月末の土曜に鎌倉へ行った。

鎌倉国宝館の「常盤山文庫70周年記念名品展・墨蹟」にて、知合いの学芸員が行う列品解説が目的だ。

でも せっかく行く鎌倉、ちょいと国宝館近辺を散策してから、と相成った。

さて 何処へ、頭に浮んだのは 昔 俳聖・松尾芭蕉が弟子からの「先生が慕う歌人とは」の問いに

「西行と鎌倉右大臣ならん」と即座に答えたという その右大臣、源実朝であった。

薄倖の歌人、3代将軍・実朝には 僕も好きな歌が数多い。

鶴岡八幡宮の大銀杏のもとに甥の公暁に暗殺され、その首を手に逃走した公暁が討たれたのち、

首は家臣により 僕の住む秦野に葬られ”実朝の首塚”として遺る。が、墓に行ったことは無かった。

国宝館がある八幡宮から西へ15分程の 鎌倉五山・寿福寺、

その裏手の急な階段を登り詰めた先、奥の崖面に幾つもの洞窟が連なっていた。

矢倉と呼ばれる ひっそりと 薄暗い 窟の墓だ。 実朝の墓は、母 北条政子と並んであった。

外からは 五輪塔が ぼんやり見えるだけだが、足を踏み入れ、思わず息を呑む。

なんと 内側は全面 びっしりと 唐草模様が刻まれているのだ。

ぞっと 立ちすくむ。

となりの政子の矢倉とは 温度まで 違うような気がした。

尼将軍といわれ 68年の生涯をまっとうした政子の窟、

策謀うずまく中 27歳で命を奪われた実朝の窟、

800年の歳月を経た今も 違う空気を宿しているのであろうか・・・

2013.7.2.


”どんと来い!夏っ!!” てな、力強い助っ人を 手に入れた。

ウォータードリップ・コーヒーサーバー である。

我が陶房は 標高330mの山中、仙境で 涼風に撫でられながらの作陶を想像される方が多いのだが、

やっぱし 夏の日中は くそ暑いのである。

しばしの休憩を 美味しいコーヒーでと、生豆を少しづつ焙煎しては ガリゴリ挽くのだが、

アイスコーヒーを と思えど、工房に 氷は存在しない。

で あるから、朝 コーヒーを淹れて ゆっくり冷まし、水の入ったボウルに サーバーごと漬けといて

 やっと 3時の休憩時に1杯、それが 毎年 夏の日課であった。

だが、しかし、今年の夏からは ちがうのであ〜る。 水出しコーヒーが作れるのだ!

ウォータードリップ・コーヒーサーバーのシステムは、まず 上部タンクの水が

ピンホールから ポタリ ポタリ と落ち、中央フィルターカップの珈琲粉に ジワリ ジワリ と染み込む。

そうして しばらくすると、充分に味と香りのエキスを湛えた雫が 下部サーバーに 点滴されるのだ。

ポタッ ポタッ・・・、ゆっくり ゆっくり コーヒーの香りが 工房内を漂いはじめる。

1杯分 150ccの抽出は 約1時間。

そして サーバーに 深さ1cmくらい 溜まるころ 珈琲点滴は、まるで 水琴窟のような調べを奏でるのだ。

ぴと〜ん ぴと〜ん・・・、 あぁー、 至福の時間よ・・・、 

これは まこと、 素敵なのである。

2013.6.16


もう ひと月も前のことになるが、知り合いのピアニストがビオラとチェロと共に奏でる、

春恒例のプリマヴェーラ・コンサートに誘われて 久しぶりに横浜の街を楽しんだ。

その晩のプログラムは、ハイドンとマルティーヌ、シューマンのピアノ三重奏曲で、

横浜みなとみらいホールの音響の良さも相俟り、3人の巧みな演奏は 痺れるような余韻を 味わわせてくれた。

ところで、また なぜ、1ヶ月まえのことを書くかというと、じつは

その日、コンサートまでの時間調整に行った所が なかなか面白かったからである。

それは、となり駅 ”日本大通り駅”の真上のある「横浜ユーラシア文化館」。

博物館として開館したのが 2003年だそうで、まだ10年だが 建物がとにかく かっこいい。

昭和4年に 横浜中央電話局の局舎として建てられた 歴史的建造物なのだ。

これは ぜひ 外に出て、交差点の斜向いまで 足を運び 全貌をご覧になってください。

さて、”ユーラシア”というと ヨーロッパとアジアを合わせた いささか広い地域ではあるが、

その文化の特徴を 東洋学者・江上波夫 博士から横浜市に寄贈された資料を核とし、

生活、工芸、装い、文字 など テーマ別に コンパクトながら優品で 分かりやすく展示されている。

かなりの見応えなのに、入館料は たったの200円と 太っ腹〜! ぜったい おすすめ なのである。

そして 現在、開館10周年記念特別展 「マルコ・ポーロが見たユーラシア『東方見聞録』の世界」 が、6月いっぱい開催中。

この企画展中は 入館料300円だけど、それだって お安いでっせぇ〜〜。

2013.6.1.


パソコンを買った。 僕のとって このWindows8 で4台目である。

・・が、 あれぇ? あ、 自分で買ったの これ初めてじゃん! おぉ〜・・

そうなんです、まえの3台は どれも皆 お下がりの頂きもの。

10年くらい前かなぁ、個展の作品リストをExcelで作ってメールに添付って時代に。

「克童さん、そろそろパソコン始めたらいかがです?、余ってるの1台ありますしぃ」が、スタートだったっけか。

今まで使っていたのも 友人が「克童君、XPノート 使う?、僕 Vistaにするからぁ」と、5年前に我が家に。

2003年夏モデルだから もう10年選手、おととしにディスプレイが壊れて外部モニターに、

この春にはDVD・ROMが壊れて外付ドライブに、と 満身創痍。 まったく ホントにご苦労様でした。

!!ところが である。御老体XP殿には まだまだ頑張ってもらわにゃいかんことと 相成ったのであります!

それは、Windows8に 古いバージョンのフォトショやイラレが、こともあろうにインストールできんらしいのですっ!。

ぐわぁ〜、んなわけで XPじぃちゃまには リカバリーでリフレッシュしていただき、

Adobe製品専用機としてですね、これからも 末永〜く、お付き合い頂くこととなりやんした。

2013.5.15.


茅ヶ崎・俊 での 「中島克童 陶展 ・ 窯変」 が、4月28日に終了いたしました。

このギャラリーでの展示は 土・日が3回入る、足掛け3週という ゆったりした会期が特徴ですが、

今回は 2週目が「大岡越前祭」、3週目が「湘南祭」と 茅ヶ崎きってのイベントと重なり、

遠方から足をお運び下さった方々も オマケ付き個展を楽しんでいただけたようです。

そして、恒例の 開高 健 ゆかりの店「ジンギスカン」での、

愛陶家、研究者、学芸員、作家等などが 入り乱れての宴会も 途中2度ほど。

たまたま帰国中というニューヨーク在住の映像作家さんも参加してくださり、そりゃもう 大盛り上がり。

肉を焼く もうもうの煙に、服から髪の毛まで 全身 焼肉の匂いが染み付いちゃって なんのって。

そうして、茅ヶ崎の夜は更けるのでありました。

2013.5.1



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2013年 1〜4 月


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