窯だより バックナンバー 2014年 1〜4月


桜吹雪の中の 大工仕事は なかなか乙なものだった。

30年前の登り窯築窯のとき建てた 第一号のマキ小屋は、

柱こそ防腐処置された古電柱だったが 屋台骨は山中に倒されていた 杉の間伐材。

もう 数年まえから錆びて破れたトタン屋根の雨水で 所々腐ってしまい、

それでも 突っ支いを入れたりして 騙しだまし持たせていた。

それが この冬の大雪で、ついに 末期的に。

柱だけは残して あとは造り替えることと相成った。

しかし まぁ、30年経って腐った小屋を直す こっちの身体も 30年経っているわけである、

そりゃぁ 捗らないの なんのって。

折りも折り、頭上の桜は 満開と きたもんだ、

手を止めては 張りかけのトタンに、大の字に横になり、

散りゆく桜を仰ぎ 風に舞う 花びらに、時を忘れてしまうのであった。

2014.4.15.


昨年11月から4ヶ月に渡り開催された 大阪市立東洋陶磁美術館の『定窯・優雅なる白の世界-窯址発掘成果展』が終了した。

個展の片付けや大雪の始末で、はて、いつ行ったものかと思案していたところ、

当初の予定には無かった この発掘調査に直接携わった中国の研究者3名による「特別記念講座」が、

展覧会会期を残すところ1週間という きわどいタイミングで急遽企画され、”よっしゃ!行くなら 今でしょ!” と 大阪入りした。

展示物も発表内容も 超一級で、大阪までの移動距離など ものともせぬ素晴らしいシンポだったが、

ま、とは言っても そりゃ なかなか叶わぬ上洛のチャンスなので、合わせて 奈良 京都を のんびり歩いてきた。

奈良は ならまち 西の京 を、京都は 大原野 嵯峨野 を 主に辿ったが、

桜には一足早い この時期、観光客も まばらで 静かな古都を ぞんぶんに楽しめた。

されとて 特別なところに行ったわけでもなく、いまさら お話しすることもないのだが、

ちょっと 珍百景っぽいのが ひとつありました!?

それは、阪急・東向日駅から大原野へ向かう バスの窓から見た 街道沿いの標語看板だった。

1時間に1本というバスに 乗客は 僕一人、めっちゃローカルで のどかな景色、

そこに なんとも不似合いな大きな看板に 書かれていた標語は こうだった。

 拳 銃 を 持 つ な 作 る な 撃 た せ る な! 』

・ ・ ・ なぬっ!! ここは、日本だよなぁ〜??

2014.3.30.


3月7日から9日に開催された、東京国際フォーラム の ”アートフェア東京2014”に行った。

秋に 新橋の 東京美術倶楽部 で行われる ”東美アートフェア”と共に、年2回の 美術のお祭りである。

古美術から絵画、彫刻、工芸、そして現代アートまで、取り扱うレパートリーの じつに様々な 全国の美術商が 約140店、

割り与えられた せまいブースの中で 最大限にアピールせんと、毎年 手を替え品を替え、テーマを絞り込んでの展示は とにかく面白い。

ひととおり見て回るのに かるく4時間は掛かる内容は、入場者も体力勝負。

気になるブースを もう一度などとなると、もう ヘトヘト の ヨレヨレ なのであった。

しかし、いつもは 美術館・博物館で ガラス越しで見ているものが 手に取れたり、価格が分かったり、と。

まっこと、やめられまへんなぁ〜〜。 

2014.3.14.


雪は 窯まわりに まだ残るものの、仕事場までの 山道は やっと車が入れるようになった。

今は 消えた雪の下から現れる 大量の杉枝の掃除に奮闘中である。

数えると 10日間以上も 徒歩以外 交通マヒの窯場だったが、

そんな中を 先日23日の日曜日、韓国の女性陶芸家が訪ねて下さった。

前日の土曜に行った、日本橋 三井記念美術館での 東洋陶磁学会の今年度最後の研究会

「体感的・韓国陶磁史研究事情-1970年代を中心に-」 で 発表をされた方が お連れしてくれたのだが、

その時点では まだ雪が ドッサリ、お二人には 200m手前から用意しておいた 長グツに履き変えてもらっての 窯場案内となった。

女史は 僕より ずいぶん歳が若いが、高麗青磁による現代的表現で 米・スミソニアン美術館に作品が収蔵され、

それでいながら、韓国の伝統的な大甕製作技術にも精通していて、じつに幅広い作陶活動をされている。

ひとしきり 窯、ロクロ、土、釉薬、と 身ぶり手ぶり での 話の花を咲かせあとは、

相模湾の魚と、丹沢の鹿肉と山菜を 肴に 最高に盛り上がったのであった。

2014.2.28


この2週連続の大雪には ほとほと閉口した。 

毎週末 丸2日の雪掻きで、やっと家から車が出せるようには一応なるが、

仕事場は雪に閉じ込められ 孤立状態で、展覧会出品の作品発送にも 背負子で担ぎ下ろす有様である。

しかし、まぁ、こういう時の夜は 幽閉感の底に どっぷり沈み、盃を傾けながらの読書が なかなか乙なもの。

ちょうど このまえ、地元書店でゲットした 小林秀雄の「直感を磨くもの」が あったのだ。

近頃、小さい本屋だと 小林秀雄作品の書架も少なくなってしまったが、

久しぶりに 文庫売り場に 平積みされた小林秀雄の文字に目が止まったときは、本当に嬉しかった。

内容は 対話集であるが、物理学者・湯川秀樹、洋画家・梅原龍三郎など、

各界の第一人者 十二人と語り合う、500頁を超えるボリュームは もう涙もの。

底本は 「小林秀雄 全作品」に 所収のものだが、

この文庫は 今年 平成26年1月1日 発行となっているから、

いやー、新潮文庫 様様 でございます。

世の中、捨てたもんじゃ ございませんなのですぅ。

2014.2.17.


2月1日の夜、日本陶磁協会の六十周年記念祝賀会が 銀座東武ホテルで開かれ、全国から関係者や会員が集った。

10年前 やはり同じこの場所で 五十周年祝賀会が行われたのだが、早 十年一昔、

顔ぶれも微妙に変様し、自分より年上が多かった式典が 見回せば なんと年下の方が多い始末。

60年といったら、人なら還暦、本卦還(ほんけがえり)である。

で あるのだが、じつは 何を隠そう 私めも ついこのあいだ還暦をば迎えちゃってまして。

しかし まぁ 「六十の手習い」って言葉もあることだし、ここらで何かを・・・、ん。

と、ここで 思い出したことがある。 六十の手習い とは晩学のたとえだが、ちょっと違った解釈を。

以前、白洲正子さんが60代の時、新潮選書の一冊として書き下ろしで刊行された 『私の百人一首』 の序文。

”六十の手習・序にかえて” は こう始まる、

「 昔、私の友人が、こういうことをいったのを覚えている。

・・・ 六十の手習とは、六十歳に達して、新しくものをはじめることではない。

若い時から手がけて来たことを、老年になって、最初からやり直すことをいうのだと。」

そのあと 9ページにわたり論考を綴り、そして こう締め括る。

「 ・・・ 私はこのささやかな体験を元に、百人一首について書いてみることにしよう。

百人一首に関する本は無数に出ているので、私などに新しい発見がある筈もないが、

自分の感触だけは見失いたくないと思っている。 」

分かる、 六十からの 僕の やきもの も、そうだ と思った。

2014.2.4.


新年早々 克童窯に一大事が!! 登り窯の前で なにか事件が起こったようだ。

窯場は黄色い立入禁止のテープが張り巡らされ、刑事らしき男と鑑識の警察官たちが慌しく動きまわる。

薪小屋の横には パトカーの赤色灯が ものものしい・・・・。

と、まぁ、平成26年の仕事始めは TVロケからスタートしたわけである。

2時間サスペンスドラマ、「TBS月曜ゴールデン・浅見光彦シリーズ」、 第34話のタイトルは、『壺霊』。

平安時代から現在まで 壺中に怨念を宿しつづけるという青磁の壺に渦巻く、愛と憎しみ。

舞台は京都で 放映予定は4月頃、今回も「克童窯」は「大勝窯」と名を変え、又もや京都の山中という設定だ。

TBSさんの意気込みは なかなかで、クランクインは克童窯で。

窯場シーンの撮影に3日もかけて、登り窯には実際に火を入れちゃいましょうって 力の入れよう!!

おそれいりやした。 と、いっても全体的には京都の歴史ある寺社や街並みがメイン、

京都での撮影は これから20日間もかけるそうだから、窯場シーンの時間は たいして長くないと思うけど。

でも やっぱり せっかく焚いたんだし、薪の炎が きれいに撮れてるか 今から楽しみなのである。

てなことで、放映日が はっきりしたら 又 この”窯だより”にて お知らせしますねー。

2014.1.15.


あけまして おめでとうございます

平成26年 元旦



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