窯だより バックナンバー 2017年 5~8


   

先月お伝えした町田私立博物館の「黄金の地と南の海から・東南アジア陶磁の名品」展を鑑賞した。

久しぶりの東南アジア陶磁に絞った展覧はそれだけでも嬉しいのだが、

今展はタイトルにあるように東南アジアの海を舞台に古来くり広げられた”交易”で括っているところがとても面白かった。

昔より東南アジアは東と西、北と南の文明が交わる世界の十字路、

様々な交易品と夢と欲望を積み、商人や冒険家、海賊たちが

季節風に帆を脹らませたロマンの海だったのである。

展覧会場の中央には往時の船の模型と、香料・生薬などを詰めたコンテナ陶磁の大壺が並び、

いつもとは一風異なる魅力ある展示となっていた。

会期は 9月3日(日)まで、皆様も是非この機会をお見逃しなく。

2017.8.15


先週末、近くの禅宗寺院の恒例行事である夏の坐禅会に参禅し、

暑くなるまえの爽やかな朝のひと時、心静かなる境地を得んと足を組んできた。

写真の中央は禅の始祖である達磨大師像で、その両下に並ぶ黒の丸いのが座蒲(ざふ)という坐禅用の座布団だが、

やはりこういう環境での坐禅は身が引き締まるのだ。

というのは、じつは一昨年に初めて体験して すっかりハマリ、

ホームセンターで同じくらいの厚さのテレビ枕を買い求め、仕事場で時折り一人座っているのである。

まあ、この世界は道具の良し悪しでないことは重々承知なんだけど。

いや~、ところで も一つ、坐禅に合わせて写経も仕事場にて時々しているのですが、

その手本は100円ショップ・ダイソーで求めた、写経練習帳なのであります。

あぁ、なんか 御利益、無さそうな気がしてきたなぁ・・。

2017.8.1


7月8日から町田市立博物館で タイ・ベトナム・カンボジア・ミャンマーなどで11~16世紀に焼かれた、

東南アジア陶磁の展覧会『黄金の地と南の海から』が始まった。

町博は1990年に山田義男氏から567点を受贈したのを皮切りに、

他のコレクターからの寄贈および購入により現在約1500点を収蔵し、

世界屈指の東南アジア陶磁コレクションで知られている。

”山田コレクション”は町博への寄贈まえ、1988年に東京九段の「千秋文庫」で公開されて、

陶磁愛好家の目を驚かせ、研究者の目を狂喜させる、いわゆる事件であった。

ちなみに僕も その展覧に触発されて翌年 タイ、インドネシアを旅したものだ。

それまで東南アジア陶磁としては茶道の世界で、宋胡録(スンコロク)と呼ぶタイ産の柿形の香合や、

安南(アンナン)というベトナム産のトンボの染付の茶碗が知られてはいたが、

それらと時代背景を同じくする様々な陶磁器の検討が可能となり、貿易陶磁の研究が飛躍的に向上したのだった。

今展は町博の四半世紀をかけたコレクションの中から選りすぐりの170点に加えて、

陶磁器と共にエキゾチックな特産品を運んだ交易船、

西アジア船「ダウ」、中国船「ジャンク」、琉球船「馬艦船」の模型も展示。

関連イベントは 講演会、ギャラリートークのほか、東南アジア4か国の風土と歴史のスライド・レクチャーと、

9月4日までの会期中に12回もあって、あぁ~ どのタイミングで行こうか・・・

目下、僕の頭の中は ぐるぐるの大混乱なのである。

2017.7.15


写真は庭先の竹枝で喉自慢に余念がない画眉鳥・ガビチョウ君である。

中国四川省が故郷というこの鳥が、鳴き声目的の飼鳥から野生化して10年近くなろうか、

丹沢にもすっかり定着して増え、繁殖期の今頃は一段と大きく美声を披露している。

その歌声といったら外で囀っているのに茶の間のテレビの音声が聞こえなくなるほど。

でも、どこか中国古典劇「京劇」を思わせるような発声と節回しに つい聞き入ってしまい、

15年ほど前に中国古窯址旅行の帰りに寄った上海の街角で、

鳥籠を持ち寄った老人たちが画眉鳥の”鳴き合わせ会”を楽しんでいた光景を、

懐かしく思い出されるのだった。

2017.7.1


先日、彫刻家の友人が教授をつとめる青山学院大学で、陶芸のレクチャーをおこなった。

あの青学になんで彫刻家の教授がいて、陶芸の講演かと思うだろうから ちょっと説明をすると、

二紀会の重鎮でもある彼の大学での席は「教育人間科学部教育学科教授」。

なんでも初等教育に関わる美術全般を教えてるらしいが、

それとは別に「横山アドバイザーグループ」なる 学部、学年の枠を越えた一団が彼の元に集まり、

これも あの青山キャンパスに不似合いな”地下の図工室”で いろいろ怪しげな制作活動をしているそうなのである。

そして、美術制作機材が揃う図工室には、なんと20kw還元焼成装置付というプロ仕様並の陶芸窯があるというから驚いてしまう。

というわけで、陶芸制作にも本気な彼らに陶芸のレクチャーを、となった次第である。

さて、話しを始めると、皆の真剣さに こちらも自ずと力が入って、講演、質疑応答、ともに予定時間オーバー。

終了後の居酒屋での懇親会まで彼らとの陶芸談義に、

なにか若かりし頃の熱いものが蘇るような、そんな気がしたのであった。

2017.6.15


    

今、散歩をしていると山裾のそこかしこに 卯の花が白く咲き誇っている。 まさに「夏は来ぬ」の季節となった。

ところで、やきもの好きが”卯の花”と聞いて まず頭に浮かぶのは、志野茶碗『卯花墻』うのはながきではないだろうか。

国宝指定されている日本国産茶碗は たった2点で、その一つである。

明後日、6月4日までとなってしまったが、東京国立博物館で開催中の 特別展『茶の湯』にも出展されていたので、最近も御覧になられた方が多いはず。

そこで、おやっ? と思うのが その茶碗の文様、描かれているのは縦と横の線のみで、”卯の花”など 何処にもないのだ。

それは じつは こういうこと、この茶碗の最初の所持者とされる江戸時代初期の武将で茶人の「片桐石州」が木箱の蓋裏に自詠の歌、

「 山里の 卯の花がきの なかつみち 雪踏みわけし 心地こそすれ 」

と 書いた小色紙を貼りつけていたのだ。

”石州は この縦横の線によって描かれた姿に、山里の道にある卯の花の咲き乱れる垣を思い描いたのであろう。”

と 図録の作品解説に記されいる。

ちなみに、「なかつみち」とは、古代大和平野を南北に貫く三道の一つ。片桐石州は奈良大和の人だ。

なんとも風情たっぷりの銘である、この茶碗を見るものは皆、そこに 描かれていない 卯の花 を白い志野釉の肌中に見ることとなる。

2017.6.2


この前の続きで、タブレット話を もう一つ。それは活用法。

ここから都心へのアクセスは小田急線で1時間ちょっとだが、しかし車内でWi-Fiが使えないのである。

え~?、ちぇっ、つまんねぇの~!と、思っていたところ、気がついたのだ、「青空文庫」があるじゃん(^^♪。

著作権の切れた文学作品をネット上で無料公開している、あれです。

青空文庫なら、出掛けに家でダウンロードしてけば電車内で退屈せずにすむわけである。

そして、約1時間という なんとも中途半端な時間に、短編はじつにピッタリてなことで、

最近、芥川龍之介にすっかりはまっているんです。

え? いまさら 芥川? と思うでしょ、へへ それが違うんだなぁ~♪

つまり、芥川作品というと 10代の頃に、推薦図書やら課題図書で出会ってしまい、

いつの間にか既読作家として頭の隅の方へしまい込んでいる人が多いのでは?

僕も然り、でも この歳になって再読すると、芥川文学の世界は僕の中で大きく変化したのです。

出会うのが早すぎていた、そう思われたのです、実際。

芥川作品は 「羅生門」や「芋粥」など 《今昔物語集》 から材をとった”今昔もの”の他、

”開化もの”、”キリシタンもの” とジャンルを往還し、

晩年の自殺まえに執筆した 陰鬱とした”心象作品” と多岐にわたるが、

それだけ 広く深い背景を持っているわけである。

”今昔もの”と時代を同じくする平安時代の文学、文化、歴史、を管見ながら知り得て読むこと、

自殺直前に書かれた「歯車」に病んだ芥川の脳裏を去来する、

その切羽詰まった 芸術観、宗教感を吐露するあたり、

トルストイ その人、ドストエフスキー作品 「罪と罰」の”ラスコーリニコフ”、

「カラマーゾフの兄弟」の”イワン”の言葉を作中に織り込んでの文章は、

やはり それらを読んでいてこそ こちらの心の底に落ちてくるというもの。

あぁ、タブレットのおかげで再読、

あらためて ”芥川龍之介と出会えた”。 そんな気持ちになったのである。

2017.5.15


先月より facebook からのスポット発信を開始、事の発端は上写真のタブレットでした。

3月の大阪高島屋個展の際、現地での情報収集にネット環境が欲しいのだけど、

手持ちの通信機器はガラケー携帯で契約条件もWebなんか使ったら通信料がえらいことに。

そこで思い付いたのが、今やホテル・デパート・新幹線・飲食店など至る所 フリーWi‐Fi の時代。

そうだ、だったら タブレットがあるじゃん!と、内ポケットサイズの7インチ タブレットを入手したのでありました。

そして 近頃は美術館・博物館も facebook からの情報が増えていることだし、

閲覧のためにプロフィール公開ゼロで fb 登録して上方に向かいました。

大正解、これが功を奏して先方では じつにスムーズに行動することが出来たわけです。

ところで、fb をあれこれと見ていると、最近HPの更新が少なくなったなぁと思っていた作家連中が、

むむむ・・・ なんと、こぞって fb に居るじゃありませんか!?

なるほど 写真に短いコメントを付けて投稿する方法は、じつに かんたんシンプル。

即時性にすぐれています、ん~、なるほどぉぉ・・・、こいつは便利じゃ。

と、いった経緯で私めも マニュアル本を読み読み、発信し始めた次第でございます。

”窯だより”は今までどおりに、フェイスブックの方は小刻み不定期で都度、

組写真とコメントを基本形に共有範囲・公開にて気まぐれ発信いたしますので、どうぞ 覗きにいらしてくださいませ。

2017.5.1



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