窯だより バックナンバー 2022年 1~4月



   

春恒例「芦ノ湖で釣りと温泉」、今月初めに行ってまいりました。

でもまぁ釣りの方は釣果に関係なく湖面に竿さえ出せば、

それで満足てな調子で、箱根への寄り道を楽しんでいるのは

毎年お知らせしている通りでございます。

今回も昨年に引き続き、御殿場まわりで箱根入りしました。

御殿場はウイスキー蒸溜所へ、

コロナで2年も中止されていた見学が再開されて3日目というタイミングで。

さてさて、そしていよいよ乙女峠を登り、今年のメインテーマ、

お目当ての箱根湿生花園に向かいます。

冬期休園から春の開園の、最初を彩る「ザゼンソウ」、

写真でしか見たことの無い座禅草に出会うのが目的でした。

入園して直ぐに園内案内図をチェック、そのエリアへ直行します。

・・・無い、・・・無い、来るのが遅かったか・・・。

しかし、あぁ、カタクリとミズバショウの群生に心が洗われます。

夢心地の桃源郷とは、この世界でありましょう、美しい。

いや、十分充分、もうこれで十分、だと。

そして、歩いた木道を戻ります、・・・、あッ!

なんと木道の下に隠れて、ザゼンソウ・・、

一つだけ、ひっそりと微笑んでいたのでした、してやったり・・。

おぉ~!、温泉に浸かるべく、いざ今宵の宿へ、

明日の大漁を望みながらアクセルを踏んだのでございます。

 

2022.4.15



   

昨年末の窯だよりでお知らせした、大倉高原の山小屋解体撤去と

新トイレ設置工事が予定通り終了し、3月16日より利用可能となった。

これまで入るのに勇気が必要だったオンボロ便所が清潔トイレへと変身し、

野営山行の登山者が増えたようで平日でもテントを見かける。

工事に大型ヘリコプターを使用するため、

かつて秋に大倉高原を錦に染めたモミジの巨木が

何本か姿を消したのは残念だったが、

その直径70㎝程の切株を見た瞬間、ある事を思い付いた。

それは、眼下に秦野盆地と相模湾を見渡す

この切株の上で座禅を組んだら、どんなに爽快だろう、と。

何年かまえに、鎌倉前期の華厳宗の僧で、

京都栂尾に高山寺を営んだ「明恵上人」が、

若きころ坐禅修行に励んだ紀州有田の山”白上の峰”を訪ねた。

その険しい岩山の上から眺めた海景に、どこか似ているのだった。

   

2022.4.2



   

13日の日曜は東京国際フォーラムの「アートフェア東京2022」に行った。

古美術から近代美術、現代アートまで幅広い作品が展示される

国際的なアートフェアである。

コロナで海外からの出展は少なかったが、

それでも今回は「Art,art,ART」をテーマに148のギャラリー・美術商が参加、

見て回るだけで3時間かかる大イベントは、やはり楽しい。

ところで今年はちょうど地上広場で月一回開かれる

欧米の蚤の市をイメージしたフリマの開催日だった。

どれどれと覗いてみたら、オッ!AVIREXがあるじゃない!!

20年以上愛用した革ジャンがスリ切れて、欲しかったところなのだ。

AVIREXは米国空軍御用達メーカーで、前のは朝鮮戦争モデルだったが、

今回また凄いのを見つけちゃいました。

1991年縫製の米空軍爆撃隊モデル、なんとデッドストックで

倉庫奥深くに眠っていたという未使用品、

一目見るなり気に入っちゃいましたが、

さらにもう一つ、その爆撃機チームのニックネームが

プリントされていて「Double Trouble」というのだ。

だいたい米軍小隊のニックネームはユニークで

この”ダブルトラブル”だって、”泣きっ面に蜂”的な

”もう、最悪”ってなネーミングは笑ってしまう。

そしてその上、も一つオマケ。

僕の大好きなテキサス生まれのブルースギタリスト

「スティーヴィー・レイ・ボーン」の率いるバンド名が

「DOUBLE TROUBLE」なのである、あ~、なんという偶然。

そんでもって、価格は販売値の80%OFF!超ラッキー!!

   

2022.3.15



 

ベンハムのコマをご存じだろうか。

写真のような白と黒の面と模様からなる円盤状の独楽なのだが、

これを回すとアラ不思議、なんと色が現れるのだ。

このような色は主観色と呼ばれ、科学万能の現在の世に於いても

なぜ色が見えるのか未だ解明されていない。

じつは38年まえ、丹沢に窯を持ったころ出会った、

九州が産んだ文章道の鬼才と称される松岡隆夫さん(1921‐1991)に、

6つの作品からなる本『ゼノンの矢』を頂き、

その中にベンハムのコマから人間の色覚の本質を探求する

「天球の虹」が収録されていて、最近なつかしく読み返したのだった。

それには自作して色体験できる付録が付いていたのだが、

本体はもう失くしていてネットで探してプリント、

厚紙に張り楊枝の芯を刺して楽しんだ次第である。

皆さまも興味を持たれたらぜひお試しあれ、

YouTubeに独楽を回した動画もありますが、大して色出てません。

しかし惜しむらくは付録のコマの紛失、

松岡さんのアイデアの結晶といえるそれは、

4つのパーツを1本の楊枝に刺して相対位置を変えると色が変化、

光源を変えたり逆回転させると何色も現れる代物だった。

まさに、天球の虹だったのである。

 

2022.3.2



 

半月ほど前、ここ表丹沢で痛ましい遭難死亡事故が発生した。

克童窯がある大倉尾根の西側、西山林道終点地から

尾根上の堀山ノ家に至る枝状の小草平尾根でのことだ。

このコースは入山までの長い林道歩きが嫌われて登山者が少なく、

静かな山を楽しめるのだが、そのぶん踏み跡が不鮮明で、

雨水流で出来た何本もの筋が登山ルートをまぎわらしくしている。

過去にも道を誤り、沢に転落する事故が何度かあって、

知人たちに表丹沢の魅力あるコースを問われても

小草平尾根は紹介しなかった。

今回の滑落事故の発生時間は午前7時50分、

尾根に取り付いて間もなくに起きたと思われる。

まだ体力を消耗していないはずだし、

年齢からして何度かここを登っている人たちなのだろう。

しかし、山ではベテランほど詰まらぬ所でミスするものなのだ。

丹沢は低山とはいえ、くれぐれも用心の上に用心を

重ねなければならないのである。

「危険の感覚は失せてはならない。道はたしかに短い、また険しい。

ここから見るとだらだら坂みたいだが。」

大江健三郎も著書「日常生活の冒険」で引用した英国の詩人、

オーデンの一節は登山とは無関係のものだが、

今回の遭難事故は、妙に当てはまるのだ。

 

2022.2.16





なんたることか・・、あろうことか・・、

あまりにも突然の訃報に、今も信じることができないでいる。

東洋陶磁史研究家の吉良文男さんが1月18日に

急性心不全で亡くなられた、享年八十歳であった。

この”窯だより”の前回に「それは最近読み返した知り合いの・・」

と書いたその著者で、あれをwebにupした2日後に急逝されたのだ。

いつも元日に届く吉良さんの年賀状が今年は7日で、あいさつに

「80歳を過ぎ年賀状を書くのがしんどくなりました」

と、ありはしたものの、日常健康で坦々と研究に勤しんでおられる様子だった。

東洋陶磁史全般がフィールドだが、近年は朝鮮半島の陶磁史に力を入れて、

コロナ流行まえは年に幾度となく韓国を往来。

韓国の研究者を連れて僕の個展に来てくださったり、

韓国の陶芸家を伴って丹沢の陶房までいらしたり、

貴重な出会いと情報、資料をと、その恩恵は計り知れない。

かつて陶芸誌「陶説」に数年に及ぶ長期連載された

「韓国陶磁つれづれ私記」は、頁が擦れるほど読んでから

現地の窯跡に向かったことが懐かしく思い出される。

あぁ、人は死ぬんですね、いつかは・・・。

郷里は四国の大きな旧家で、資料文献はそちらにドッサリ有って、

今度みんなで合宿研究会をやろうよと言ってましたね、

こんなに早く亡くなられるなんて、やっとけば良かったなぁ、

まだまだ時間はあると思ってて・・・。

ご冥福をお祈りするばかりです、吉良さん。

   

2022.2.2



  

ここ何年か大晦日は正月を迎える所用で小田原の早川まで出掛けている。

正月を伊豆・箱根でと向かう車でそれなりの渋滞はあるが、

せっかく行くのだから、その方面で人が居なそうな、

ちょっと気になっている場所へ寄り道するのが楽しくもあり、

今回は箱根湯本の早雲寺に回った。

それは最近読み返した知り合いの陶磁史研究家が著した本に、

桃山時代の茶人、山上宗二が残した「山上宗二記」を

とても興味深い内容で再考されていたことに起因する。

宗二は千利休の高弟のひとりで、素晴らしい才能を持ちながら、

人柄の評判はすこぶる悪く、当時の文献にも

「いかにしても、つらくせ悪く、口悪きものにて、人のにくみしもの也、・・・」

と、あるほど。

利休とともに豊臣秀吉に茶の湯で仕えた実力者だったが、

決してお世辞など言わぬ性格と、もの言いの悪さで、

秀吉の勘気に触れ浪人の身となり諸国を流浪、

なんと秀吉の小田原・北条攻めの時は、

その小田原城の食客となっていた。

秀吉は小田原攻めの本陣を構えた早雲寺に宗二を呼び出す。

そして、あの惨劇は起きる。

1590年、早雲寺にて再会した宗二と秀吉、

そこでも又、再び二人は衝突、

宗二は耳と鼻を切り落とされ、打ち首となった。

早雲寺の境内には今も山上宗二の石碑が残されている。

ここには1989年公開の熊井啓監督映画「千利休・本覚坊遺文」の

そのシーンに衝撃を受けて訪れた以来で、33年ぶりだった。

まだ年も明けぬ大晦日の境内には、

気の早い紅梅が花を開き、春の香りを漂わせていた。

 

2022.1.16






明けましておめでとうございます


令和4年 元旦



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